小倉貴久子「フォルテピアノの世界」第一回

小倉貴久子さんのコンサートに行ってきました。

久々の東京です。上野駅公園口を降りると、横断歩道と信号が無くなり、歩きやすくなっていました。

「フォルテピアノの世界」シリーズの第一回はベートーヴェンです。

ベートーヴェンの音楽はピアノの発達と共に変化、発展していくのですが、それはただピアノを受け取っていたのではなく、製作者と常に関わりながら、ベートーヴェンの助言によってピアノが発達して行ったことがよくわかりました。

 

ベートーヴェンが初期、中期、後期に使用していたピアノを再現してステージに3台並べ、それぞれの時代のピアノソナタを演奏するという、何とも贅沢なコンサートです。

 

ベートーヴェンは初めチェンバロからスタートして、ウィーンにデビューしてからはヴァルターのピアノを愛用していました。その頃に作曲されたソナタ ヘ短調 作品2-1。

現代のピアノよりも軽やかで爽やかな音色です。若々しく生命感のある演奏が当時を彷彿とさせます。

 

このヴァルターは松本にも来てくれたことがあります!(ウィーン 1795復元楽器)

 

中期の代表は「熱情ソナタ」ヘ短調 作品57

全楽章に渡って緻密に構築された「熱情」は非常に完成度が高く、ベートーヴェンの最高傑作とされています。大変情熱的でエネルギッシュ、大胆で斬新な作品が生まれたのは、当時ベートーヴェンがヨゼフィーネという貴族の令嬢と相思相愛だったからなのですって。

演奏はイギリスのブロードウッド。(ロンドン 1800年)

ヴァルターよりかなり大型になり、音量も増して、表現が多彩になります。

現代のピアノに比べると音の響きは強くはありませんが、比べようのない繊細な美しさがあります。ベートーヴェンが求めていた世界を知ることができる貴重な機会となりました。

 

後期の代表は「ハンマークラヴィーア ソナタ」変ロ長調 作品106

これは最も長大なソナタで、50分近くかかります。演奏するのも大変ですが、聴く方も長い旅に出るようなものです。

ベートーヴェンがバッハやヘンデルの研究をもとに、バロックの伝統的な音楽を新しいものとして作り直し、前人未到の音楽を創造しようとしたものです。4楽章はフーガになっています。

1~2楽章はウィーンのピアノで作曲していましたが、途中でイギリスの6オクターブのブロードウッドが贈られてきたため、1~2楽章と3~4楽章では音域が違っており、当時のピアノでは全楽章を一台のピアノで弾くことはできなかったそうです。

コンサートでは6オクターブ半のシュトライヒャーで演奏されました。

ダイナミックでありながら、繊細なイントネーションが可能なピアノです。(ウィーン 1845)

 

一晩でベートーヴェンの3つの時代、それぞれの時代の3台のピアノを堪能できるという、稀に見る貴重な体験をさせていただきました。

小倉貴久子さんは「このプログラムは正気の沙汰ではない」と言われたそうです。2時間を超えるプログラムを立派に終えられて、本当にすばらしい演奏でした!!

ご招待いただき、どうもありがとうございます。コロナ禍での開催をありがとうございます。

壮観です。手前がヴァルター。

2020年11月23日