プロコフィエフは文学が好きで、自分で小説も書いていました。
この小説は21世紀になって、はじめて存在がわかり、日本語訳の「プロコフィエフ短編集」が2009年に発行されています。
読んでみると、本当に文章が上手く、プロの作家が書いたものと言われれば、そうかと思ってしまいます。作曲家は多才な人が多く、ショパンやメンデルスゾーンも絵が上手でしたし、ハチャトゥリアンは演劇が好きで役者になりたかったと言っています。
プロコフィエフの音楽作品同様、「ふつうに良いものは書きたくなかった」とのことで、かなりの皮肉や斜めの視線が感じられますが、執筆された当時はロシア革命後の混乱の時期で、より良い環境を求めてアメリカへ向かう長旅の途中です。精神状態も決して穏やかではなかったでしょう。
独自の発想が面白く、エッフェル塔が突然歩き始めたり、キノコの地下王国に少女が迷い込んだり、ニュヨークに蘇ったエジプトの王と石油王の対話など、ユニークな世界に誘われます。
アメリカへ行く途中に経由した日本で2ヶ月も足止めをくらい、日本の滞在記をしたためているところも興味深く、戦前の日本の様子を窺い知ることができます。
東京、横浜、京都、軽井沢などを訪れたプロコフィエフが、当時の印象を語りますが、日本についてはかなり良い思いを抱いていたようです。出版に際して編集されていなければの話ですが。
興味のある方はご一読ください。